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ジョムソン街道の旅 その19

トラチャンに「乗馬は好きか?」と聞かれ、
「好きだ」と答えると
「山まで散歩に言ってきたらいい」と言われました。
準備をして部屋から出て行くと、ロッジの前に豪華な装飾を身にまとった立派な馬が待っていました。
その横には18歳くらいの男の子が立っていて、馬の手綱を引いて先導してくれるといいます。
そして、驚いたことにこの馬、
【ムスタンの王様の馬】で、それをトラチャンが買い取ったのだとか。
「・・・というのは冗談!」
と言われるのをしばらく待ったけれど
(どうだ!)という感じでニコニコ笑っているトラチャンはどうやら冗談を言っているのではないらしいとわかります。
王様の馬を買えてしまうトラチャンていったいどれほどの有力者なのだろう?
「長く楽しんでおいで!」と言われてロッジをあとにしました。
どこに行くかもどれだけ行くかも知らないままに・・・
でたとこ勝負の王様の馬の旅がはじまりました。
平地や森、丘くらいならば馬に乗ったことはありましたが、「山」というのは初めての経験です。
それも、これまでジョムソンから歩いて来たような本格的な登山道を馬で歩くのです。
急な坂に来ると、鞍にしがみついていないと、ゆっさゆっさと振り落とされてしまいそうになります。
さすが、王様の馬!
美しいだけでなく、馬力もあります!
角度のきつい山道でも走ろうとします。
それではこちらが怖いので(それに走ったら先導の男の子はどうなるんだろう?)
(いいです。いいです。)といった感じで手綱を引っ張って速度を落としてもらいます。
ムスタンの王様は急な山も駆け足で登っていたのでしょうね、きっと。
先導してくれる男の子は、息も切らさずにもくもくと進むので、ゆらりゆらりと馬にゆられているだけだと申し訳ないような気持ちになります。
登っていくうちに、だんだんと道に岩が増えてきました。
日陰ではその岩が湿っているのか、馬が岩に足を乗せると微妙にツルッと滑ることがあります。
そして、登るにつれてツルッの回数が増えてきました。
二本足と違って、四本足は足を置く場所を選ぶのも大変なのだと見ていて思います。
常に四箇所の安全を確認しながら進まなければならないのです。
そして、場合によっては、
「左前足と左後ろ足と右の後ろ足は安全だけど、右の前足はどうしてもコケの生えた岩の上以外に置く場所がない!」というような状況に直面するわけです。
なので、馬自身もある程度滑ることは予測しているようで、滑ってもそんなにあわてたりしないので乗っている方もそれほど恐怖は感じません。
しかし、こちらとしては、どんどん急になる切り立ったガケを見ると
(馬が滑って失敗したら運命はおんなじなんだな・・・)とつい思ってしまい、体が硬くなります。
呉羽山にすると3つ分ほど登ったところで視界が開けてきました。
広場のような何もない場所にぽつんと立っている柵に馬をつないで、休憩することにしました。
1時間と少しくらい登ったことで山の反対側にでたようです。
ロッジから見える景色とはまた違う荒涼とした風景が広がります。
それは、ジョムソンの荒涼さとも違っていて、石が茶色いためかそれほど冷たい感じません。
茶色い石ばかり広がる大地越しに8000メートル級の山々を眺めるとまた違った味わいがあります。
他にすることもないので、持ってきたとっておきの非常食!「無印の乾燥納豆とおしゃぶり昆布」を取り出しました。
やはり、いきなり納豆はまずいと思ったので、おしゃぶり昆布を先導してくれた男の子に渡しました。
当然「これ何?」ということになりますが、昆布の英語名を知らなかったので
「海の中に生えている草」と答えました。
海を見たこともない人にとっては、すごく奇妙な食べ物に思えたことでしょう。
男の子は、小さなおしゃぶり昆布を近づけたり遠ざけたり、ひっくり返したりして確認してから
ちょこっとかじりました。
感想聞くと「不思議な味」とのこと。
そうだろうなあ、ネパールの草とは似ても似つかないものだものなあ。
昆布のおかげかはわかりませんが、帰り道は特に滑ることもなく、
無事ロッジに着くことができまたのでした。
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