ひとつ上の洪水で流された村に泊まるつもりの客でにぎわっているせいか、あまり対応のよくない宿だったので早朝に出発を決めました。
朝食もそこそこに山道を進みます。
道はずいぶん、土が多くなってきました。
靴がずいぶん汚れるようになって気がつきました。茶色い土です。
ジョムソンの黒い石を考えるとここが海だったときはどの辺りだったのだろうと考えます。
深海だったのか、それとも海岸だったのか。
基本的にはジョムソンからひたすら高度をさげているのですが、まだ上りもあります。
ずいぶんと足に筋力がつき、引き締まった気がします。
20キロの荷物を担ぐときにヒョイと持ち上げられるようにもなってきました。
このころには4時間は通常のペースと感じられるようになってきて、本日の宿が見えた時には「まだ行けるかも」と思いました。
しかし、この先はガレ場の下りばかりが6時間続く、街道きっての難所です。
おとなしく、明日への活力を養うことにしました。
宿は、こぎれいで、庭には緑が多く、その中をニワトリたちが走り回っています。
こちらに来て驚いたのがゆでたまごのおいしさだったので、早速テーブルにつくなりゆで卵を注文しました。
それだけではのどが渇くと思い、メニューを見ると「オレンジジュース」とあります。
ここまではずっと高地で栽培されるリンゴジュースが主だったので、いよいよ下ってきたのだなとうれしくなり、注文してみることにしました。
年のころ30くらいのお姉さんに「オレンジジュースください」と頼むと
「はいはい」と笑顔で返事した後、
「ナントカナントカ!」
と庭に怒号が響き渡りました。
注文してはいけなかったのかと焦りましたが、その怒号は私に向けられたわけではなく
どうやら家の中には子供へのものだったようです。
3回いや、5回ほど怒鳴りつけられたあとに、8歳くらいの息子が庭に出てきました。
あきらかにふてくされています。
何か怒られたんだろうなあと同情する気持ちで彼の様子を見ていると
突然、するすると庭の木に登り始めました。
まだお母さんは何か叫んでいます。
ここで事態が判明!
彼が登っているのはみかんの木で、お母さんに頼まれてわたしのオレンジジュースの材料を収穫させられているのです。
遊んでいる途中に呼びつけられたようで、なんだか申し訳ない気持ちになります。
それにしても木に登った男の子はぜんぜん下りてきません。
もぎ取ったみかんは次々とTシャツの前で器用に袋を作って入れていきます。
もうこのあたりになるとお母さんが何を言っているのかわかるようになりました。
母「もう、その辺でいいから」
子「もうちょっと」
母「一杯だけだからそんなにいらないってば」
子「だってもう呼ばれたくないんだもん」
母「いい加減にしないさい!」
ここで、ようやく、これでよし!といった表情をした男の子がみかんの木から顔を出し
「わかったよ~」と返事をして下りてきました。
お母さんには結構減らず口をたたいていたのに、わたしたちに気がつくと
(いらっしゃい)といった感じでにこやかに笑いかけ、
(今しぼるからね)と手まねで示してささっと台所に入っていきました。
もう、呼ばれるのはごめんと思ったのか、男の子は家から出て行き、それと入れ替わるようにテーブルにもぎたて、しぼりたてのオレンジジュースがやってきました。
彼らにとっては日常、でもそれがとても特別な貴重なものに思えたのでした。 ブログランキング挑戦中です!
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